「なぜ日本線のフライトは、機内がこんなに美しいままなの?」
日本便を担当していた外国人同僚たちが、着陸後の機内チェック時に必ずといっていいほど口にする言葉でした。
彼女らが指差した先にあったのは、丁寧に畳まれたブランケット、きれいにまとめられたゴミ、そして散乱物一つない美しい空間。
「こんな光景、他の路線では絶対に見られないよ!」
その時、初めて気付いたことがあります。それは、日本人にとっては「当たり前」のことが、世界では「特別なもの」だということ。
海外で客室乗務員として働いた8年間、世界各国の同僚やお客様と接する中で、「これが日本人特有の感性なのか」と気づかされた瞬間が数多くありました。
外国人の同僚の驚きや感動の声を通して、私自身も日本人の美しい振る舞いを客観視することができたのです。
この記事では、世界を旅した中で改めて発見した日本人の精神性について、実際にあったエピソードとともにお伝えします。
忙しい日常の中で忘れがちになったこの感性を、もう一度思い出してみませんか?
調和の美学:「和を以て貴しとなす」〜争いを調和に変える日本人の力〜

聖徳太子の十七条憲法に記された「和を以て貴しとなす」。
この精神は、1400年以上経った今でも、私たち日本人の心の奥深くに息づいています。
多国籍のクルーと働く中で、この「調和を大切にする心」がいかに特別で美しいものかを、身をもって体験しました。
◆文化の橋渡し役としての日本人

国際線では、様々な文化背景を持つクルーが一緒に働きます。時には宗教的な価値観の違いや、仕事に対する考え方の違いで摩擦が生じることも。
そんな時、日本人クルーが自然と「橋渡し役」になることが多いのです。どちらの立場も理解し、共通点を見つけて、チーム全体がうまく機能するよう調整する。
あるフランス人上司は「日本人は外交官のようだ」と表現していました。自己主張するのではなく、全体の調和を保ちながら、最良の結果を生み出す能力に長けているのです。
一人が困っていれば自然と手を差し伸べ、全員がお客様の満足を第一に考える。
言葉を交わさなくても、阿吽の呼吸で動く美しいチームワーク。
この調和の力が、結果として最高のサービスを生み出していたのです。
◆機内での静かな気遣い

成田行きの便で、ドイツ人の先輩クルーが私にこう言いました。
「日本人が多い便は、なぜ機内全体が静かになるの?まるで図書館みたいね」
確かに、日本人のお客様が多いフライトでは違いが顕著でした。通路での会話は小声で、お手洗いへの移動も足音を立てないよう気を配る方が多いのです。
周りで眠っている方への配慮が自然とできる日本人は、空間全体を穏やかにする力があることを実感しました。
◆対立を調和に変える美しい心

日本発のフライトで、座席を巡る小さなトラブルがありました。
座席指定の勘違いで、少し緊張した空気が流れました。
その時、日本人のお客様が
「皆さんが快適に過ごせることが一番大切ですね。私は元の席で十分ですので、ご心配なく」と穏やかにおっしゃってくださいました。
その一言で場の空気が一変し、他のお客様も「私も大丈夫です」と譲り合いの心を見せてくださったのです。
【現代に活かす「調和」の美学】

家族での意見の違い、職場での人間関係の不和など、どんな場面でも、
「みんなが幸せになる方法は何だろう?」という心があれば、きっと解決の糸口が見つかります。
自分が正しいと主張するのではなく、全体の調和を第一に考える心が、温かい関係を築く秘訣なのです。
争いや対立は、心にも体にもストレスを与えます。しかし、調和の中で生きることができれば、自然と心は穏やかになり、体の緊張もほぐれていきます。
「和を以て貴しとなす」という1400年前の教えは、現代のストレス社会を生きる私たちにとって、心と体を整える最高の処方箋かもしれません。
次に、この調和の精神がさらに具体的な行動として現れる「立つ鳥跡を濁さず」の美学についてお話をしていきましょう。
配慮の美学:「立つ鳥跡を濁さず」〜去り際まで美しい心遣い〜

自分が去った後の場所を、来た時よりも美しく整えておく。これは誰かに言われたからするのではなく、自然と身についている日本人の美意識です。
この美しい精神も、機内では数え切れないほど目にしてきました。
世界が注目した日本の心遣い

2022年のワールドカップで、サッカー日本代表が試合後、使用したロッカールームをピカピカに掃除し、「ありがとう」と書かれたメモまで残していたことが話題になりましたよね。
冒頭でもお伝えしたように、外国人クルーと話していてよく話題に上ったのが、「日本線の機内はとにかく綺麗」ということ。
ブランケットは丁寧に畳まれ、ゴミはまとめられ、お化粧室も綺麗で、清掃の手間が省かれることが多かったです。
「次に使う人のために」という思いやりが、自然と行動に現れていました。
誰も見ていなくても、人のために整える。
この在り方こそが、日本人が大切にしてきた宝物なのです。
◆手荷物ひとつにも思いやりを込めて

誰かのために整えるという意味では、空港の手荷物受取所でも、日本ならではの素晴らしさに驚く声を何度も耳にしました。
海外では手荷物が粗雑に扱われることが多く、中身が壊れたり、スーツケースに傷がついたりすることも珍しくありません。
しかし、日本の空港では荷物が一つひとつ向きを揃えて美しく置かれているのです。
「受け取る人が取りやすいように」という思いやりが、荷物の置き方にまで表れているのです。
これほど細やかな配慮をする国は、世界でも日本だけでした。
【現代に活かす配慮の美学】

家庭ではベッドを整えたり、お風呂場を綺麗に整えたり、会社では机周りや会議室を綺麗にする。
こうした日常の小さな配慮が、環境を整え自分自身だけでなく周りの人も整えてくれる効果があります。
「立つ鳥跡を濁さず」の心は、全体の調和にもつながる美しい生き方の指針なのではないでしょうか。
この配慮の心と並んで、日本人が大切にしてきたもう一つの美徳があります。
それが「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という謙虚さの美学です。
謙虚さの美学:「実るほど頭を垂れる稲穂かな」〜成功しても変わらぬ姿勢〜

黄金色に実った稲穂が、重みで静かに頭を垂れる秋の風景。
この美しい情景から生まれた「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉は、日本人の心の奥底に流れる謙虚さを象徴しています。
この言葉を最初に教えてくれたのは、私の祖母でした。幼い頃から数々の苦労を乗り越え、いつも笑顔で人のために尽くす姿は、まさにこの言葉を体現していました。
海外で働く中で、この日本人特有の謙虚さが、いかに世界の人々に感動を与えているかを幾度となく目にしました。
◆ 成功しても変わらない美しい姿勢

ファーストクラスのお客様の中に、日本の大手企業の役員の方がいらっしゃいました。重要な国際会議を成功させて帰国される途中でしたが、そのお客様の振る舞いは実に謙虚で美しいものでした。
サービスの度に丁寧にお礼を言ってくださり、乱気流で飲み物をこぼしてしまった時も「申し訳ありません」と恐縮され、私たちを気遣ってくださったのです。
アメリカ人の同僚は「あんなに地位のある人が、なぜあんなに謙虚なの?本当に紳士的ね」と驚いていました。
地位や実績を重ねるほど、より謙虚になる。まさに「実るほど頭を垂れる稲穂」のような美しい在り方でした。
【 現代に活かす謙虚の美学】

謙虚であることは、決して自分を卑下することではありません。
むしろ、常に学び続ける姿勢を保ち、周りの人から多くのことを吸収できる心の状態なのです。
また、謙虚な人の周りには、自然と人が集まります。威張ったり自慢したりせず、相手の話に真摯に耳を傾ける姿勢は、信頼関係を築く土台となるのです。
さらに、謙虚でいることは、心の平安をもたらします。
他人と比較して優越感に浸ったり、劣等感に苦しんだりすることから解放され、自然体でいられるようになります。
肩の力が抜け、表情も穏やかになり、心身ともにリラックスした状態を保つことができるのです。
黄金色に実る稲穂のように、成長すればするほど頭を垂れる。
この美しい日本の心を、私たちも日々の中で大切にしていきたいですね。
そして、この謙虚さと深く結びついているのが、日常の中で最も身近な「いただきます」の心です。
感謝の美学:「いただきます」〜命とすべての人への敬意を込めて〜

海外で食事をしていて気づいたことがあります。多くの国では、食事前に短い祈りや「Bon appétit」などの挨拶はあっても、日本のように食材そのものや関わった全ての人への感謝を込めた言葉は珍しいのです。
「いただきます」は、単なる「食べること」への言葉ではありません。
そこには、
・命をいただくこと
・料理を作ってくれた人
・食材を育ててくれた人
・食卓まで運んでくれた人
目の前の食事に関わる、すべてに対して感謝なのです。
この一言が、食事を「単なる栄養摂取」から「人と自然のつながりを感じて、感謝しながらいただく時間」に変えてくれるのです。
外国人クルーと食事をした際、「いただきます」の意味を説明したら「それは美しい習慣だ」と感動されたことがあります。
ぜひ、この感謝の習慣を持ち続けていたいですね。
◆ 食材への敬意を込めた美しい食べ方

プレミアムクラスで日本食の懐石料理を提供した時のことです。
サービスの時、フランス人の同僚が日本人の方の食べ方をじっと見ていました。 箸を正しく持ち、お椀を手に取って、最後の一粒まで丁寧にいただく姿に、「まるで儀式のように美しい」と言っていたのです。
食べ終わった後のお膳も、来た時と変わらないほど美しく整えられている。
食べ終わった機内食のトレイを見ても各国の文化の違いが見てとれるのですが、日本便では決まって元の通りに整然としているのです。
これを見た外国人の同僚たちは、食べる前の懐石料理の美しさと、食べ終わったお膳の美しさに二度驚くのでした。
◆ 感謝を形にするお辞儀の習慣

「なぜ日本人は頭を下げるの?宗教的な意味があるの?」
イギリス人の同僚からこう質問されたことがあります。
サービス後にお客様が軽く会釈してくださる姿を見て、彼女は不思議に思ったのです。
「感謝の気持ちを体で表現しているの。相手を敬う心の表れよ」と説明すると、
「Beautiful!私たちは言葉だけで感謝を伝えるけれど、日本人は心と体で表現するのね」と感心していました。
この会話の後、彼女も日本人のお客様にサービスする時は、軽く頭を下げるようになりました。
【現代に活かす感謝の美学】

忙しい現代だからこそ、「いただきます」というその一言が
食卓を愛に満ちた空間に変えてくれるのです。
目の前にある全ての食べ物は、多くの人の手があって初めて食べることができているのです。感謝の心を持って食べると、同じ食事でもより美味しく、より心豊かな時間に変わるから不思議です。
こうして食事の度に感謝の思いを持つことは、私たちの心を落ち着け、体を健やかに保つ土台になっているのではないでしょうか。
日本の美意識で心と体を整える5つの実践法
これまでお伝えした日本人の美意識は、単なる文化的価値観に留まりません。実は、私たちの心と体を健やかに保つための、先人からの贈り物なのです。
ここでは、今日からすぐに始められる、心と体を整えるための実践法をご紹介します。
【今日からできる心と体を整える5つの実践法】
この習慣は、私自身が日々大切にし実践をしてきたものです。あなたもこれらの小さな積み重ねを続けていくうちに、自然と心も体も整うことが感じられるようになるはずです。
①外出先の空間を整える

家の中を整えることはもちろんですが、外出先でも空間を整えることを意識してみませんか?
仕事柄ホテルに泊まることが多く、実践してきたことがあります。
それは、部屋を元の状態に戻して出発すること。ゴミをまとめ、備品を元の位置に戻し、トイレットペーパーを三角折りにする。
この小さな心遣いが、空間全体の雰囲気を変える力を持っています。
②食事の前は心を込めて「いただきます」

小さな頃はみんなで言っていたこの言葉を、いつの間にか忘れていませんか?
食材、作り手、運んでくれた人、全てのつながりに感謝を込めて。
きっと食事の時間が、より豊かで穏やかなものになります。そして、食事の後には「ごちそうさま」もお忘れなく。
③月に一度、自然と向き合う時間を作る

日本の美意識は自然と強く結びついています。
私は常夏の国で生活して初めて、日本の四季の美しさに気づくことができました。
自然の中に行くことで、本来の自分の感性を取り戻すことができます。
春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色。日本の四季折々の美しさに感謝しながら、五感で季節の移ろいを感じてみませんか?
④感謝の気持ちを書き出す

一日の終わりに、今日を振り返ってみましょう。
嬉しかったことや、感謝したいことを3つ書き出す習慣をつけるだけで、心が満たされるのを感じるはずです。
⑤調和を大切にした関係づくり

価値観が異なる人との間でも、不和を避けるための秘訣があります。
それは、「みんなが幸せになるにはどうしたらいいのだろう?」という視点を持つこと。
エゴに振り回されずに、一歩引いた視点から解決策を考えてみませんか?
まとめ|あなたの中にある美意識を取り戻しませんか?
海外で生活し、世界各国の人々と働いて分かったこと。
それは、日本人が昔から大切にしてきた美意識は、決して「当たり前」ではなく「特別なもの」だということです。
現代社会では効率やスピードが優先されがちですが、日本人の美意識は「整える」ことに調和まで含んだ、総合的な「生き方の美学」なのです。
それは外見的な美しさだけでなく、心のあり方、人とのつながり、自然との向き合い方まで含まれているのです。
争いや競争が心と体にストレスを与える現代だからこそ、調和を重んじ、感謝を忘れず、目に見えないところまで配慮する。そんな日本人の美意識が、私たちの日々を豊かで健やかなものにしてくれます。
小さなころは誰もが持っていたこの感性。
もし最近忘れていたかも!という方は、今日から少しずつ取り戻してみませんか?
今日から、ほんの一つで構いません。部屋を整える、食事に感謝する、そんな小さな一歩があなたの中に眠る美しい心を目覚めさせ、周りの人だけでなく、あなた自身も輝かせてくれるはずです✨
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